共同研究

【2020年度共同研究班】信頼できる企業に関する経済学的考察ー情報の経済学、企業の理論、および企業の経営形態比較からのアプローチー

研究テーマ

研究の目的及び意義

2020年度 共同研究班
代表者 兵庫県立大学     三上 和彦 教授
構成員 神戸市外国語大学 田中 悟 教授
流通科学大学 森澤 龍也 教授
研究の目的及び意義

 

食品の産地偽装、顧客情報の不正利用、老人介護施設における虐待など、企業が消費者の信頼を裏切るような事件が日々報道されている。信頼できる企業とは、一体どのような企業なのだろうか。本研究課題の目的は、企業がなぜ消費者の信頼を裏切るような行動をとるのか、企業が消費者の信頼に値する組織であるためにはどのような制度設計が必要なのかについて、経済学の考え方を用いて考察することにある。
企業が消費者を欺くような事件が発生する前提としてまず考えられるのが、いわゆる情報の非対称性である。これは、市場で取引される財・サービスの質について、売手(企業)は買手(消費者)より正確で詳細な情報を保有しているという状況を表す概念であり、現実における多くの取引について当てはまるものであると考えられる。例えば、老人福祉施設における虐待の問題は、福祉サービスの質が、認知能力の低下した利用者本人には判断しづらく、また外部からこれを把握することが難しいという事情から生じる問題である。また、インターネットの普及により私たちは多くの個人情報をオンライン上で登録するようになっているが、これらの個人情報が企業内でどのように管理・運用されているかについては知る由もない。こうした状況における市場取引の帰結を考えるには、「情報の経済学」における所論が役立つものと考えられる。
また、企業は人のように一つの統合された意思を持った経済主体であるというよりは、所有者、経営者、従業員など、異なる意思と利害を持った複数の経済主体の複合体である。これは「企業の理論」の基本的な見方であるが、企業が消費者の信頼を裏切るような行動を取る誘因を探る上でも重要な視点になるものと思われる。
さらに、企業の信頼の問題には、企業の経営形態が影響している可能性も考えられる。例えば、食品産業においては農業協同組合や生活協同組合など多くの協同組合が活動しているし、社会福祉の分野においては社会福祉法人など非営利組織の占める割合が高い。また、グーグルやアマゾンなど大手IT企業の現地法人は、しばしば株式会社ではなく合同会社という形態をとっている。こうした、企業の組織形態と公正さとの関連については、「企業の経営形態比較」の分野における知見が参考になるかもしれない。
企業が消費者を騙すような不正を犯すことについては、これを経営者の道徳の問題として捉える向きが多い。しかし経営者の道徳心のみを頼りにこうした問題を解決することは困難であり、そもそも企業が不祥事を起こす理由や仕組みを分析的に捉え、改善への糸口を探る作業が不可欠であるように思われる。
こうした基礎研究は、現実におけるさまざまな社会問題に対し政策提言を行う際にも活かされるのではないかと考えている。前述の老人介護の問題でいうと、神戸研究学園都市は1980年代から2000年代初頭にかけて計画的に開発された街であり、将来のある時点で一気に高齢化が進み、老人介護サービスへの需要も高まる。このような地域社会において、老人介護施設が適切な質を保ちながら経営を継続させていくためにはどのような組織設計や公的規制が必要であるのかを検討しておくことは意味のあることであろう。本研究課題はこうした現実の問題に対しても重要な知見を提示するものであると考える。
研究実績・成果 研究成果についてはこちらをクリック →

 

≪ 戻る

その他共同研究発表会

PageTop